第六回;琉球弧の農耕暦と年中行事/南島の夏正月③北大島の八月踊り(秋名・佐仁)
- 2014/12/29
- 11:31
奄美シマウタ研究会 プログラム アーカイヴ
2014.12.6(土)14:00~17:00@法政大学沖文研
『民謡大観』第II部「儀礼・行事・祝い」より「折り目儀礼(夏正月)と八月踊り」(3)
*八月踊りは、奄美芸能の宝庫。一集落20曲におよぶレパートリーがあります。曲の分布や系統は関連するものも多いですが、集落ごとにフシや文句は微妙に変わります。奏演のスタイルやレパートリーには地域性があり、北大島と南大島では異なります。
*表記例;歌唱形式(実際のうたわれ方)はabcd・・・ハヤシ詞(ことば)。/〈ジャンル名〉《曲名》
II-3 北大島の八月踊り(秋名(あぎな)・佐仁(さん))/南大島の八月踊りとワークショップ
0.前回補足;しょちょがまの屋根の上でのグジ(男性祭祀者)の唱えごとに、
「屋仁(やん)佐仁(さん)田袋(たぶく)ぬ稲だまがなしや、秋名田袋ち寄りみしんしょうし/西東(ニシヒギャ)の稲だま加那志や、伊津部田袋ち寄りみしんしょうれ/伊津部田袋ぬ稲だま加那志も、秋名田袋ち寄りみしんしょし」
とあり、北の屋仁佐仁集落の稲魂様も、西東の稲魂様も(名瀬の伊津部集落の田圃に寄ってから)秋名の田圃に寄ってきて下さい、と言っています。その後、
「北(ニシ)風が吹けば、上ぬ畔枕/南(フーン)風ぬ吹けば、下の畔枕」
と対句にして、北のことをニシと言います。つまりニシと言った場合、西でもあるし北でもある。一つの祝詞の中にみられるこの矛盾をどう考えたらよいでしょうか。
琉球方言では一般に、西=イリ(太陽の入る方角)、また北=ニシで、ミーニシは、新たに吹いてくる北風なわけです。
一方、当日の出席者から、西東は「瀬戸内あたり」をさすのではないか、というご指摘がありました。薩藩時代の東(ヒギャ)間切、西(ニシ)間切が合併して瀬戸内町になったため、そういう言いまわしがあるのでしょう。考えてみれば行政区画としての西間切の読みはニシであってイリとは言いませんね。結局、自然方位としてのニシと、行政区画という人為的な制度のニシは異なるのだと思われますが、この問題は歴史的なことも含め、今後の課題としておきましょう。
1.〈八月踊り〉概説[民謡大観]/旋律の系統比較(集落別)
・宮(みやー)踊り;拝所前の広場で、《祝付(ようつ)け》系統の曲で開始し大きな輪を組み立てる。
・家(やー)まわり(ヤサガシとも);《祝付け》~他2,3曲~お花の披露~六調~《おぼこり(感謝)》で道行き/→かど踊り;路上(辻)で10軒くらいまとめて踊って次へ。
・元歌(歌い出しの、曲の由来を示す歌詞)に続いて共通歌詞(どの曲でもうたえる歌詞)
<北> (▽は視聴した曲)
2.龍郷町(たつごうちょう)秋名の八月踊り全11曲 ♪七日七夜踊てうぇせろ
[酒井映像] 2003.8/31 アラセツ;《おぼこり(どんどん節)》で道行き、公民館前広場へ。
▽①《あらしゃげ》女=♪平瀬まんかいの歌/《あらしゃげ》男=♪しょちょがまの歌 ab ハレcd ヨンドハレccd ヨンド ~ほらしab ハレcd ヨンド(=♪短縮型)
*儀礼的な開始、祝い付けの曲に特徴的なabcdccd ヨンドの歌唱形式。
*ほらしとはテンポを速める付随旋律。他集落ではくずし、あらしゃげとも。
②《今の踊り》
③《ほこらしゃ》(ここで撮影中断)
[酒井映像] 1986?アラセツ
①《あらしゃげ女+・男》
+は旋律の起伏が大きく、しばしば裏声が使われる曲。
②《今の踊り》 abcd ヤイキュラサ・・~ほらし1~ほらし2(どんどん節)
③+《喜界(ききゃ)湾泊まり》 ab ハレcd ヤヨンドハレccd
▽④《ほこらしゃ》 abcd アナレイショナcd ~ほらし1ヤショレ~ほらし2(ドンドン節)
*《でっしょ》《嘉鉄(かてつ)伊能君主》と同系統の、うわさ歌傾向の曲。ただし秋名では人名は出ない。
⑤+《赤木名観音寺(ぜ)》 abcd アラヨイサヨイサ・・~ほらし(どんどん節)
▽⑥+《波打際(やんごら)ぬいぶ》 ab ヨハレcd ヤショレ~ほらし(どんどん節)(下線:繰り返し)
3.奄美市笠利(かさり)佐仁の八月踊り<CD> 全25曲より
▽《庭のしょうじ(=祝い付け)》 abcd ヨンドハレcc ~あらしゃげab ヨイヤナー
▽《ねんごろじょ》 abcdc2c2c1cd アラヨイヨイ *c1+c2=c
《ヤソレノトエトエ》 abb <ヤソレノトエトエ> cdd *<相手方ハヤシ>
▽《屋仁川(やんごら)ぬいぶ》 ab ヨハレcd
《ソレサンマンエ》 abcd ソレサンマンエcd ~あらしゃげab ハレcd、a ハレb ヨーハレ ;七五調、笠利一帯に
・相手の歌の途中で次をうたい始め、二声が重なる。下句脱落傾向、テンポ速まる。
・abcdccd ヨンド・裏声の曲が多い(5曲);
《庭のしょうじ》《縁ぬ八月》《喜界湾泊まり》《おろしょめでたよ》《おしこげ》
[酒井映像] 2003.8.31~9.1 アラセツ
佐仁2区(ウシロ)
▽①(2曲目)《ヤソレノトエトエ》~ハナ(寄附金)披露
▽②《庭のしょうじ》~あらしゃげ(口説)
③《喜界湾泊まり》~ハナ~六調 ab ハレcd ヤヨンドハレc <> cd ヤヨンド
④《縁ぬ八月》
▽⑤《やんごらぬいぶ》/《おぼこり》 abb < b > cdd
⑥《庭のしょうじ》~六調
佐仁1区(マエ)
①《庭のしょうじ》
②《ねんごろじょ》~ハナ
③《こうべなべ》 ab ハレcd ヤショリャ~あらしゃげ(ドンドン節)
~六調~ヤンバラー(山原) *手踊り曲は9曲
<南>
4.瀬戸内町古仁屋の八月おどり 全21曲より
[酒井映像] 1994.9.14
《庭(やんめ)踊り(祝(いわ)お)》*祝付(ようつ)け系統 ab ハレcd ヨンドハレccd ヨンド
▽《諸鈍長浜》 ab ヒヤルガフェアレc(d)
▽《おぼこれ》 別れの道歌 ab ハレcd(ヤシュリャ) (内は脱落)
5.北大島との比較
・打ち出し・太鼓は男で、太鼓はやや大ぶり。(~徳之島に近い)
・テンポは一定。曲をメドレー式に替えながらテンポを速めるシフトアップの技法(ホラシ、クズシ、アラシャゲともいう)が、南ではみられない。しかし地域によっては、最後やや速めていく(打ち上げる)曲もいくつか意識されている(嘉鉄(かてつ))。
・歌詞のナガレの種類が多いのではないか?
6.八月踊りワークショップ 瀬戸内町花冨(けどみ)(大橋穣さん指導)
《足習(な)れ》~《嘉鉄(かてつ)ぬいなくんしゅ》~《エーウミ》~《ほこらしゃ》
*1980年頃から東京の島唄教室で踊り継がれてきた、朝崎郁恵さんの生まれジマの八月踊りより
<参考文献>
清(きよし)眞人・富島甫(はじめ) 2013『奄美 八月踊り唄の宇宙』海風社
中原ゆかり 1997『奄美の「シマの歌」』弘文堂
松原武実編 1991『奄美大島佐仁の八月踊り歌詞集/ CD』南日本文化研究所叢書16
嘉鉄(かてつ)民謡保存会 1985『八月踊り』(手づくり歌詞集) 他
2014.12.6(土)14:00~17:00@法政大学沖文研
『民謡大観』第II部「儀礼・行事・祝い」より「折り目儀礼(夏正月)と八月踊り」(3)
*八月踊りは、奄美芸能の宝庫。一集落20曲におよぶレパートリーがあります。曲の分布や系統は関連するものも多いですが、集落ごとにフシや文句は微妙に変わります。奏演のスタイルやレパートリーには地域性があり、北大島と南大島では異なります。
*表記例;歌唱形式(実際のうたわれ方)はabcd・・・ハヤシ詞(ことば)。/〈ジャンル名〉《曲名》
II-3 北大島の八月踊り(秋名(あぎな)・佐仁(さん))/南大島の八月踊りとワークショップ
0.前回補足;しょちょがまの屋根の上でのグジ(男性祭祀者)の唱えごとに、
「屋仁(やん)佐仁(さん)田袋(たぶく)ぬ稲だまがなしや、秋名田袋ち寄りみしんしょうし/西東(ニシヒギャ)の稲だま加那志や、伊津部田袋ち寄りみしんしょうれ/伊津部田袋ぬ稲だま加那志も、秋名田袋ち寄りみしんしょし」
とあり、北の屋仁佐仁集落の稲魂様も、西東の稲魂様も(名瀬の伊津部集落の田圃に寄ってから)秋名の田圃に寄ってきて下さい、と言っています。その後、
「北(ニシ)風が吹けば、上ぬ畔枕/南(フーン)風ぬ吹けば、下の畔枕」
と対句にして、北のことをニシと言います。つまりニシと言った場合、西でもあるし北でもある。一つの祝詞の中にみられるこの矛盾をどう考えたらよいでしょうか。
琉球方言では一般に、西=イリ(太陽の入る方角)、また北=ニシで、ミーニシは、新たに吹いてくる北風なわけです。
一方、当日の出席者から、西東は「瀬戸内あたり」をさすのではないか、というご指摘がありました。薩藩時代の東(ヒギャ)間切、西(ニシ)間切が合併して瀬戸内町になったため、そういう言いまわしがあるのでしょう。考えてみれば行政区画としての西間切の読みはニシであってイリとは言いませんね。結局、自然方位としてのニシと、行政区画という人為的な制度のニシは異なるのだと思われますが、この問題は歴史的なことも含め、今後の課題としておきましょう。
1.〈八月踊り〉概説[民謡大観]/旋律の系統比較(集落別)
・宮(みやー)踊り;拝所前の広場で、《祝付(ようつ)け》系統の曲で開始し大きな輪を組み立てる。
・家(やー)まわり(ヤサガシとも);《祝付け》~他2,3曲~お花の披露~六調~《おぼこり(感謝)》で道行き/→かど踊り;路上(辻)で10軒くらいまとめて踊って次へ。
・元歌(歌い出しの、曲の由来を示す歌詞)に続いて共通歌詞(どの曲でもうたえる歌詞)
<北> (▽は視聴した曲)
2.龍郷町(たつごうちょう)秋名の八月踊り全11曲 ♪七日七夜踊てうぇせろ
[酒井映像] 2003.8/31 アラセツ;《おぼこり(どんどん節)》で道行き、公民館前広場へ。
▽①《あらしゃげ》女=♪平瀬まんかいの歌/《あらしゃげ》男=♪しょちょがまの歌 ab ハレcd ヨンドハレccd ヨンド ~ほらしab ハレcd ヨンド(=♪短縮型)
*儀礼的な開始、祝い付けの曲に特徴的なabcdccd ヨンドの歌唱形式。
*ほらしとはテンポを速める付随旋律。他集落ではくずし、あらしゃげとも。
②《今の踊り》
③《ほこらしゃ》(ここで撮影中断)
[酒井映像] 1986?アラセツ
①《あらしゃげ女+・男》
+は旋律の起伏が大きく、しばしば裏声が使われる曲。
②《今の踊り》 abcd ヤイキュラサ・・~ほらし1~ほらし2(どんどん節)
③+《喜界(ききゃ)湾泊まり》 ab ハレcd ヤヨンドハレccd
▽④《ほこらしゃ》 abcd アナレイショナcd ~ほらし1ヤショレ~ほらし2(ドンドン節)
*《でっしょ》《嘉鉄(かてつ)伊能君主》と同系統の、うわさ歌傾向の曲。ただし秋名では人名は出ない。
⑤+《赤木名観音寺(ぜ)》 abcd アラヨイサヨイサ・・~ほらし(どんどん節)
▽⑥+《波打際(やんごら)ぬいぶ》 ab ヨハレcd ヤショレ~ほらし(どんどん節)(下線:繰り返し)
3.奄美市笠利(かさり)佐仁の八月踊り<CD> 全25曲より
▽《庭のしょうじ(=祝い付け)》 abcd ヨンドハレcc ~あらしゃげab ヨイヤナー
▽《ねんごろじょ》 abcdc2c2c1cd アラヨイヨイ *c1+c2=c
《ヤソレノトエトエ》 abb <ヤソレノトエトエ> cdd *<相手方ハヤシ>
▽《屋仁川(やんごら)ぬいぶ》 ab ヨハレcd
《ソレサンマンエ》 abcd ソレサンマンエcd ~あらしゃげab ハレcd、a ハレb ヨーハレ ;七五調、笠利一帯に
・相手の歌の途中で次をうたい始め、二声が重なる。下句脱落傾向、テンポ速まる。
・abcdccd ヨンド・裏声の曲が多い(5曲);
《庭のしょうじ》《縁ぬ八月》《喜界湾泊まり》《おろしょめでたよ》《おしこげ》
[酒井映像] 2003.8.31~9.1 アラセツ
佐仁2区(ウシロ)
▽①(2曲目)《ヤソレノトエトエ》~ハナ(寄附金)披露
▽②《庭のしょうじ》~あらしゃげ(口説)
③《喜界湾泊まり》~ハナ~六調 ab ハレcd ヤヨンドハレc <> cd ヤヨンド
④《縁ぬ八月》
▽⑤《やんごらぬいぶ》/《おぼこり》 abb < b > cdd
⑥《庭のしょうじ》~六調
佐仁1区(マエ)
①《庭のしょうじ》
②《ねんごろじょ》~ハナ
③《こうべなべ》 ab ハレcd ヤショリャ~あらしゃげ(ドンドン節)
~六調~ヤンバラー(山原) *手踊り曲は9曲
<南>
4.瀬戸内町古仁屋の八月おどり 全21曲より
[酒井映像] 1994.9.14
《庭(やんめ)踊り(祝(いわ)お)》*祝付(ようつ)け系統 ab ハレcd ヨンドハレccd ヨンド
▽《諸鈍長浜》 ab ヒヤルガフェアレc(d)
▽《おぼこれ》 別れの道歌 ab ハレcd(ヤシュリャ) (内は脱落)
5.北大島との比較
・打ち出し・太鼓は男で、太鼓はやや大ぶり。(~徳之島に近い)
・テンポは一定。曲をメドレー式に替えながらテンポを速めるシフトアップの技法(ホラシ、クズシ、アラシャゲともいう)が、南ではみられない。しかし地域によっては、最後やや速めていく(打ち上げる)曲もいくつか意識されている(嘉鉄(かてつ))。
・歌詞のナガレの種類が多いのではないか?
6.八月踊りワークショップ 瀬戸内町花冨(けどみ)(大橋穣さん指導)
《足習(な)れ》~《嘉鉄(かてつ)ぬいなくんしゅ》~《エーウミ》~《ほこらしゃ》
*1980年頃から東京の島唄教室で踊り継がれてきた、朝崎郁恵さんの生まれジマの八月踊りより
<参考文献>
清(きよし)眞人・富島甫(はじめ) 2013『奄美 八月踊り唄の宇宙』海風社
中原ゆかり 1997『奄美の「シマの歌」』弘文堂
松原武実編 1991『奄美大島佐仁の八月踊り歌詞集/ CD』南日本文化研究所叢書16
嘉鉄(かてつ)民謡保存会 1985『八月踊り』(手づくり歌詞集) 他
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